Biography
榊原康範は、1967年に日本・愛知県に生まれ、現在も同地を拠点に制作している。 1992年、東京の多摩美術大学絵画科油画専攻を卒業。制作初期には、アルブレヒト・デューラー、マティアス・グリューネヴァルト、ヤン・ファン・エイクら北方ルネサンスの画家たちに強く惹かれた。その後、イタリア・ルネサンスにおける卵テンペラと油彩の技法を学んだ。 しかし、彼にとって最も早い時期の芸術的体験の一つは、14歳の時に冨田勲の1974年のアルバム『Snowflakes are Dancing』に出会ったことである。この作品は、批評家によって「音による絵画」と評され、音楽によって映像や建築的な形態を喚起するものであった。この体験は榊原に深い印象を残し、後の芸術的視野を形づくる重要な要素となった。 大学時代、榊原は黒澤明の映画と出会った。精緻に構築された黒澤の作品を通して、彼は芸術家の使命について学んだ。彼の芸術的目標は、西洋ルネサンス絵画だけでなく、10世紀から12世紀の日本の仏教絵画にも置かれている。彼はそれらを、芸術的達成の頂点の一つと考えている。絵画に専念しながらも、音楽と映画は現在に至るまで、彼の制作を支える重要なインスピレーションの源であり続けている。 1997年、日本の雄大な自然や人々を写実的な様式で描いていた榊原は、東京で開催された展覧会で現代アジア美術に大きな衝撃を受けた。これをきっかけにタイを訪れ、重層的な文化、都市と人々が持つ混沌とした奔放なエネルギー、豊かな質感をもつ都市風景に強く惹かれた。それらは、当時の日本から失われつつあるもののように感じられた。 その後、インド、ネパール、香港、台湾、インドネシアを旅し、それぞれの文化的風景の豊かさを体験した。現地で人々との関係を築き、調査を行いながら、旅の中で制作を続けた。とりわけ、かつて英領インドの首都であったコルカタは、榊原にとって特別な意味を持つ場所となった。コルカタに触発された作品群は、現在も彼の作品世界における重要な位置を占めている。 2013年から2015年にかけて、榊原はグアム島に滞在した。そこで彼は、変化する世界情勢と日本の国際的な位置を肌で感じた。スペイン、アメリカ、日本の支配を受けた歴史を持つグアムの複雑な歴史、とくに第二次世界大戦期における日本とグアムの関係について深く調査した。この経験は、国境や人種を超えて、個人こそが重要であるという彼の考えを強め、多文化的な文脈の中で自分自身がどこに立つのかを意識させるものとなった。 グアムでは、現地の芸術家たちと交流し、グアム大学で作品を発表した。2016年には、Festival of Pacific Arts and Crafts に日本人作家として唯一参加し、その作品は高い評価を受けた。現地の人々から寄せられた「あなたの絵には東洋の本質を感じる」という言葉は、榊原に自身の文化的な根を改めて自覚させるものとなった。 COVID-19のパンデミックの時期、榊原は日本文化とアジア文化の文脈の中で、自らのアイデンティティを再検討した。その中で、仏教絵画への関心を改めて深めていった。彼は、物質的な世界と形而上的な世界の両方を捉えることを目指し、自然と人工物を観察し描いている。その作品は、文化的・地理的な境界を越え、多様な文化と風景を一つの絵画世界へと統合している。 榊原は、個人を同調圧力から解放する必要性について語る。とくに、日本社会に残る、集団への過度な帰属の期待を問題として意識している。彼は個人の自由と意志を重視し、作品を通して、鑑賞者が世界の多様性と複雑さを自由に経験できる場を提供したいと考えている。精密に構築された重厚な作品は、世界そのものの本質を宿すものであり、それを見る人に力とインスピレーションを与えると彼は信じている。榊原の目標は、一時的な流行を超え、時間の試練に耐える、強く持続する作品を生み出すことである。 Selected Exhibitions and Awards 1995年:第71回白日会展に初出品。本展賞候補。東海テレビ放送賞受賞。 2000年:三井海上火災保険ギャラリー(岡崎)にて個展。第76回白日会展、第26回中部白日会展に出品。 2001年:第77回白日会展にて会友推挙。 2003年:第79回白日会展にて準会員推挙。 2005年:第81回白日会展にて富田賞受賞、会員推挙。 2002年、2008年:大王大賞展 銀賞。 2014年:Creative Hands(Isla Center of the Arts, University of Guam)にてグランプリ受賞。 Collections 岡崎市美術博物館、志摩市大王町(三重県)、豊川市役所市長室、米国準州グアム
